お昼ごろ、午前のリハーサルが終わって帰ろうとしたとき、上着がないことに気づいた。どうやら行きの電車に忘れてきたらしい。
駅に行って、
「朝9:30ごろ、この駅に着いた川崎行きの電車の網棚にジャケットを忘れようなのですが・・・」
と駅員さんにたずねると、
「朝、降りたとき言ってくだされば、終点川崎で調べられますが、もう時間が経っていて、どの電車か分からないので、数日後に電話で問い合わせてください」
という返事で、私の前には、電話番号の書かれた紙が差し出された。
本当に分からないのだろうか? ・・・怪しい。
「何とか、分かる方法はありませんかね?」
と、2〜3回聞いてみるが、
「いや、ちょっとここでは、わかりませんね」
の一点張り。これでは、話が続かない。
実は、ダイヤグラムがあれば、簡単に分かるはずで、駅員さんが面倒くさがらなければ、すぐ調べられるのだ。別に、ラッシュアワーの忙しい時間帯でもない。口調は丁寧なのに、言い方と裏腹に不親切な駅員。いかにも関わりたくないという感じ。
仕方ない、それならば、自分で探してやろう、と心に決めた。
そして、その電車が車庫に入ってしまう可能性がないことを確認してホームに下りた。
ゆっくりと時刻表を眺め、まず、朝、自分の降りた電車の時間を調べ、確定する。そして、終点川崎駅までの所要時間、折り返しにかかる時間として数分を加える。今度は、階段を上って、下りて逆方向のホームへ。
ここでも、さきほどと同様、大体、予想される時間に一番近い時刻表の時間を採用、以降、その繰り返し。南武線は7-8分間隔で運転しているので(これが山手線だったら難しい)、大体2本に絞ることができた。計算してみると、運のいいことに、ここ、溝の口駅に、次の次にくる電車であることが分かった。しかも、これから乗ろうと思ってた電車の方向と同じ。
逆方向に停車している電車をみて、行きに何両目に乗っていたかおおよそ特定して、「ジャケットが置いてあるあるはず」の電車を待った。もし、その電車の中で見つけられなければ、次の駅で降りて、その次の電車に乗ってまた探す。
しばらく経って、電車が入線。
ちょっと緊張する。
乗車して、一箇所ずつ網棚をチェック。
・・・
「やった!」
見つかった。朝、9時過ぎに置いたままの状態だ。
うれしかった。大昔、算数の問題の答え合わせで、正解だったときの喜び、心待ちにしていた人にあったときの喜び。何ともいえないは幸せな瞬間だった。
でも、そこで声を出したら、まわりの人に変人扱いされてしまう。
そっと、済ました顔をして、静かにジャケットを取って、隣の車両に移る。
何となく、ニヤニヤしてしまった。(の)